営業として一人で担当を持ち始めて間もない頃、今でも忘れられない出来事があります。
ある案件で、自社の商品を使ってもらえることになりました。
その案件では、特殊な形状の製品が必要だったため、私は何度もお客様のところへ足を運び、「そろそろ発注できますか?」と状況を確認していました。
そのたびに返ってくるのは、
「まだいい。」
という返事ばかり。
制作には約2か月かかる製品だったので、そのことは何度も説明していました。
ところが、ようやく発注の連絡が来たと思ったら、
「3週間で納入してくれ。」
という内容でした。
「そんな話は聞いていない。」
「とにかく何とかしろ。」
担当者はかなり怒っていました。
正直、私は恐怖で頭が真っ白になりました。
「社内で相談してご連絡します。」
そう伝えるのが精一杯でした。
会社に戻ってからも、
「何度も納期の説明をしてきたのに。」
「何度も状況を聞きに行っていたのに。」
そんな気持ちが頭の中をぐるぐる回っていました。
もちろん、お客さんにも事情はあったのだと思います。
それでも、新人だった私には、この状況を一人で解決する方法が分かりませんでした。
そのとき、上司がこう言ってくれました。
「俺の後輩いじめてくれて、仕返ししてやる。」
もちろん、本当に仕返しをするという意味ではありません。
緊張していた私を少しでも安心させようとしてくれた、上司らしい冗談でした。
その日は年末の金曜日。
上司はプライベートの大切な約束があったそうですが、その予定を後回しにして、一緒にお客さんのところへ向かってくれました。
お客さんの前では、まず状況を丁寧に説明し、こちらの事情だけを押し付けるのではなく、分納の提案など、いくつかの方法を考えて話を進めていきます。
それでも難しいと分かると、
「県外のメーカーにも確認してみます。」
と、その場で新しい方法を提案してくれました。
会社へ戻るとすぐに県外メーカーへ連絡し、納期や価格の調整まで進めてくれました。
結果として、お客さんが希望する日程には届きませんでしたが、できる限り早い納期で製品を納入することができました。
私はそのやり取りを横で見ていることしかできませんでした。
自分のお客さんなのに、何も力になれない。
申し訳ない気持ちと、「自分にはこんな対応はできない」という思いでいっぱいでした。
でも同時に、営業とは商品を売るだけではなく、問題が起きたときに、お客さんや社内、そして協力会社との間に立って、最善の方法を探す仕事なんだということを教えられました。
この出来事から長い時間が経ちました。
今でもあのときの上司の姿は強く印象に残っています。
部下のために予定を変更し、一緒に考え、一緒に頭を下げ、一緒に解決策を探してくれたこと。
もし今の自分が、あの頃の上司と同じ立場になったとしたら。
同じように行動できるかと聞かれると、正直、自信はありません。
でも、「困っている部下を一人にしない。」
そんな上司の姿勢だけは、今でも私が働くうえで大切にしたいと思っていることの一つです。

